温泉入門「適応症とは?」

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♨ 適応症とは?

適応症とは? 温泉入門 適応症とは?

温泉における「適応症」とは、温泉療養を行うことによって効果をあらわす症状、つまり期待できる 温泉の効能 のことで、泉質に関わらず広く温泉に期待できる「一般的適応症」と、個別の泉質にのみ期待できる「泉質別適応症」とに分かれる。

温泉の「適応症」は、昭和時代の1954年に当時の厚生省が定めたものだが、『諸国温泉功能鑑』などの温泉番付でもわかるように、江戸時代より温泉の効能は謳われてきた。

古くから皮膚病に効くとか、リュウマチに効くとか、眼病に効くなど恋の病以外は治せない病は無い…とまで言われてきたが、そんな古くからの言い伝えとは別に、浴用や飲用などの温泉療養によって効果が期待できる症状を、温泉の「適応症」とした。

温泉の「適応症」については、1954年の策定以降、1982年に当時の環境庁が「禁忌症」等の改訂を行い、2014年に環境省が日本温泉気候物理医学会の協力のもと、最新の医学的知見に基づく科学的根拠をもとに、実に32年ぶりに改訂を行った。

だが、2014年7月1日付の環境省通知「温泉法第18条第1項の規定に基づく 禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等の基準」では、最初に


3.療養泉の適応症
温泉療養を行うにあたっては、以下の点を理解して行う必要がある。

①温泉療養の効用は、温泉の含有成分などの化学的因子、温熱その他の物理的因子、温泉地の地勢及び気候、利用者の生活リズムの変化その他諸般によって起こる総合作用による心理反応などを含む生体反応であること。

②温泉療養は、特定の病気を治癒させるよりも、療養を行う人の持つ症状、苦痛を軽減し、健康の回復、増進を図ることで全体的改善効用を得ることを目的とすること。

③温泉療養は短期間でも精神的なリフレッシュなど相応の効用が得られるが、十分な効用を得るためには通常2~3週間の療養期間を適当とすること。

④適応症でも、その病期又は療養を行う人の状態によっては悪化する場合があるので、温泉療養は専門的知識を有する医師による薬物、運動と休養、睡眠、食事などを含む指示、指導のもとに行うことが望ましいこと。

⑤従来より、適応症については、その効用は総合作用による心理反応などを含む生体反応によるもので、温泉の成分のみによって各温泉の効用を確定することは困難であること等から、その掲示の内容については引き続き知事の判断に委ねることとしていること。


と書かれている。温泉成分が作用する効能については否定しないものの、『その効用は総合作用による心理反応などを含む生体反応によるもので、温泉の成分のみによって各温泉の効用を確定することは困難である…』と綴られており、この一文が今回の改訂を物語っている。

そもそも禁忌症と異なり、適応症には掲示義務がない。禁忌症の方に重きが置かれ、通知文の順番が禁忌症からとなることは十分理解できるが、通知文の4割近くは適応症について書かれているにも関わらず、2014年の環境省通知の表題には、1954年の策定時にはあった「適応症」という文字すらない。

事故やトラブルを未然に防ぐことが大事であり、禁止事項や注意喚起が増えることは理解できるが、それにしても温泉治療を積極的に促すような項目は無く、皆が興味を抱く適応症については、科学的に証明できない、責任が取れないということからトーンダウンし、禁忌症という責任を取りたくないことは、予防線を張るようにどんどん改正され追記されていく。

現在の日本の社会においては、致し方ないことなのだろうが、一般的適応症・泉質別適応症についても同じような傾向が見られる。


■一般的適応症(浴用)
〇筋肉若しくは関節の慢性的な痛み又はこわばり
(関節リウマチ・変形性関節症・腰痛症・神経痛・五十肩・打撲・捻挫などの慢性期)
〇運動麻痺における筋肉のこわばり
〇冷え性,末梢循環障害
〇胃腸機能の低下(胃がもたれる・腸にガスがたまるなど)
〇軽症高血圧
〇耐糖能異常(糖尿病)
〇軽い高コレステロール血症
〇軽い喘息又は肺気腫
〇痔の痛み
〇自律神経不安定症・ストレスによる諸症状(睡眠障害・うつ状態など)
〇病後回復期
〇疲労回復・健康増進


■泉質別適応症(浴用)
〇単純温泉:自律神経不安定症・不眠症・うつ状態
〇塩化物泉:切り傷・末梢循環障害・冷え性・うつ状態・皮膚乾燥症
〇炭酸水素塩泉:切り傷・末梢循環障害・冷え性・皮膚乾燥症
〇硫酸塩泉:切り傷・末梢循環障害・冷え性・うつ状態・皮膚乾燥症
〇二酸化炭素泉:切り傷・末梢循環障害・冷え性・自律神経不安定症
〇酸性泉:アトピー性皮膚炎・尋常性乾癬・耐糖能異常(糖尿病)・表皮化膿症
〇硫黄泉:アトピー性皮膚炎・尋常性乾癬・慢性湿疹・表皮化膿症(硫化水素型については末梢循環障害を加える)
〇放射能泉:高尿酸血症(痛風)・関節リウマチ・強直性脊椎炎


■泉質別適応症(飲用)
〇塩化物泉:萎縮性胃炎・便秘
〇炭酸水素塩泉:胃十二指腸潰瘍・逆流性食道炎・耐糖能異常(糖尿病)・高尿酸血症(痛風)
〇硫酸塩泉:胆道系機能障害・高コレステロール血症・便秘
〇二酸化炭素泉:胃腸機能低下
〇含鉄泉:鉄欠乏性貧血
〇含よう素泉:高コレステロール血症
〇硫黄泉:耐糖能異常(糖尿病)・高コレステロー ル血症

(注)1.療養泉の一般的適応症及び泉質別適応症について重複するものがある場合は、掲示に当たっては、泉質別適応症の掲示を優先し、重複するものを一般的適応症から除いても差し支えない。
2.鉱泉分析法指針(平成26年改訂)(*)に示す療養泉の泉質の分類が二つ以上該当する場合における適応症は「該当するすべての適応症」としているが、掲示に当たっては、重複して掲げないこととする。


となっていて、昔から比べると「肥満」「月経障害」などの症状が消え、その効能も絞られている印象は否めない。全体的にトーンダウンした内容で、科学的にも医学的にもハッキリとその因果関係が証明できないものは、やんわりと消されている感じだ。

どちらかというと温泉成分よりも、メンタル面の転地効果やリフレッシュ効果に重きが置かれているようで、泉質よりも温泉に行くことや湯舟に浸かることでの心理的効果に重きが置かれているような印象だ。

また留意事項として、

『温泉は自然由来のものであり、ゆう出後に空気との接触による酸化、揮発性成分の揮散等により、温泉成分に変化が見られる場合もあり、実際の浴用にあたっては気温変化や利用者の多寡による変化の度合も異なるため、恒常的に分析結果を示すことは困難である。掲示内容については、利用施設における成分分析結果に基づき行うことを原則とするが、ゆう出口と利用施設との間でその成分に差異がないと認められる場合には、ゆう出口における分析結果に基づき掲示して差し支えないとしている。よって、源泉の分析結果に基づき適応症を判断したものである場合にはその旨が温泉利用者へ分かるようにすること。また、利用施設における温泉の成分分析結果に基づいて適応症を判断した場合にはその旨を掲示することは差し支えない。』

とある。

個々の源泉の管理状況や湧出量、湯舟との距離や利用者数などでその効能は変わりうるもので、分析結果はあくまでも参考程度のモノである…と言っているようなもので、温泉の効能 というものを謳うことが、物申す現代社会においてどれほど難しいことなのかが垣間見える。

尚、プロが選ぶ温泉宿『名湯・秘湯★百湯』の温泉の効能では、濃い紫に金文字が特に期待できる適応症で、薄紫に白文字が適応症を、白地に薄文字がこの温泉地には無い適応症を示している。またその下に飲泉の可否が示されている。




ちなみに…♨ 禁忌症とは?

適応症とは?

ちなみに禁忌症については、

『禁忌症は、1回の温泉入浴又は飲用でも有害事象を生ずる危険性がある病気・病態である。なお、禁忌症にあたる場合でも、専門的知識を有する医師の指導のもとに温泉療養を行うことは妨げない。』

と記載されており、禁忌症には、①温泉の一般的禁忌症 ②泉質別禁忌症 ③含有成分別禁忌症 があるとされている。


■温泉の一般的禁忌症(浴用)
〇病気の活動期(特に熱のあるとき)
〇活動性の結核、進行した悪性腫瘍又は高度の貧血など身体衰弱の著しい場合
〇少し動くと息苦しくなるような重い心臓又は肺の病気、むくみのあるような重い腎臓の病気
〇消化管出血、目に見える出血があるとき、慢性の病気の急性増悪期


■泉質別禁忌症(浴用)
〇酸性泉:皮膚又は粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症
〇硫黄泉:酸性泉に同じ


■含有成分別禁忌症(飲用)
〇ナトリウムイオンを含む温泉を1日(1,200/A)×1,000mLを超えて飲用する場合 ⇒ 塩分制限の必要な病態(腎不全、心不全、肝硬変、虚血性心疾患、高血圧など)
〇カリウムイオンを含む温泉を1日(900/A)×1,000mLを超えて飲用する場合 ⇒ カリウム制限の必要な病態(腎不全、副腎皮質機能低下症)
〇マグネシウムイオンを含む温泉を1日(300/A)×1,000mLを超えて飲用する場合 ⇒ 下痢、腎不全
〇よう化物イオンを含む温泉を1日(0.1/A)×1,000mLを超えて飲用する場合 ⇒ 甲状腺機能亢進症
〇上記のうち、二つ以上に該当する場合 ⇒ 該当するすべての禁忌症


となっている。

飲用の禁忌症については、温泉の飲用許可が出たものに限定されることを条件とし、総量ではなく含有成分別に詳細に規定されている。

以前は温泉水1000ml程度の飲用も構わないとされていたが、これが1回あたり100~150ml程度、1日およそ200~500mlまでを上限とするとなっている。また温泉成分の変化を理由に持ち帰りを原則禁止している。

これも最新の医学的知見に基づく科学的根拠をもとに…と言われれば何も言えないが、どうしても予防線的な匂いを感じてしまうのは、わたしだけだろうか…。



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