アトラクションようなループ橋!
伊豆半島のど真ん中を突き抜ける国道414号を走って南下していくと、突然大空に投げ出されたかと思うと、グルグルと回転しながら一気に下っていくという、まるで遊園地のアトラクションに乗っているかのような感覚に陥る場所が現れます。
初めて通る方は、必ずと言っていいほど、山間の道からほうり出されるかのようなこの感覚に、驚きとともに楽しさを覚えるはずです。
そのような体験ができる場所となっているのが、河津町にある『河津七滝ループ橋』(かわづななだる るーぷきょう)です。
簡単な漢字ゆえに、逆に自然と読み間違えている方が多いのですが、観光名所である【河津七滝】は、”ななたき”ではなく”ななだる”と読み、このループ橋はその近くに位置します。
静岡県人でも間違えている方が結構いますので、なかなか県外の人ですらっと読める方の方が少ないのかもしれませんが、この機会に覚えて頂けたらと思います。
ちなみに正式名称は『七滝高架橋』と言うのですが、私はそう呼ぶ人に未だかつて出逢ったことがありません。テレビや雑誌でも、ほぼ100%『河津七滝ループ橋』として紹介されていますので、逆に正式名称で言われたらピンとこないかもしれません。
といっても、橋の場合は結構正式名称ではなく通称・愛称で呼ばれるケースが多い訳で、特別珍しいことではないんですけどね…。
まるでCGのようなその眺め!
そんな河津七滝ループ橋ですが、このループ橋が出来る以前の県道13号修善寺下田線は、山肌を行ったり着たりのつづら折りの道となっていて、中伊豆と南伊豆を結ぶ幹線道路として重要な役割を担っていただけに、交通の便を図る上でもこの区間の通行は障害となっていました。
そんな折、1978年1月14日の伊豆大島近海地震で土砂崩れが発生し、この山腹の道路が寸断されてしまいました。
一日でも早い復旧が叫ばれる中、つづら折りの道は、急斜面ゆえの土砂崩れの再発の危険性を含んでおり、スムーズな交通の実現と災害に強い道づくりをどうするか、そして何より一気に下るこの高低差をどう処理するかということが、この区間の道路復旧工事においての難題とされました。
そんな中、1981年3月に誕生したのが、およそこの田舎の山奥には似つかわしくない近代的建造物である、この2重ループ橋でした。
同年土木学会田中賞を受賞した、橋脚の緑が鮮やかなこの河津七滝ループ橋は、全長1064.1mで、橋長998.7m、高さ44.9m、直径80mの螺旋状の橋で、遠くから見るそれは、一昔前の特撮映像かはたまたCGか…という感じで、昔を知る者からすると一瞬目を疑うような光景となりましたが、今ではすっかり【浄蓮の滝】や【旧天城トンネル】などとともに、沿線の観光名所のひとつとなっています。
この橋の完成により、課題だった幹線道路としての通行障害も緩和され、翌1982年4月に、県道13号は国道414号へと格上げとなりました。
凄いぞ!このループ橋
ループ橋といえば、この河津七滝ループ橋以外にも、潮岬や橋杭岩で知られる和歌山県の「くしもと大橋」や、身近な例では「新宿駅西口広場」も、ループ橋と言えばループ橋となっており、全国各地にたくさん存在します。
そんな中で、なんと言っても全国的に有名なのが、織田裕二主演の映画 『踊る大捜査線』のサブタイトルにもなった、東京のお台場と芝浦の間に架かる「レインボーブリッジ(東京港連絡橋)」ではないでしょうか。
フジテレビがある、お台場側を背景にした写真ばかりが有名なため、「えっ?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、芝浦埠頭側の上り口は、巨大なループ橋となっています。
しかしながら、そんな他のループ橋を横目に、この河津七滝ループ橋の凄いところは、直径がわずか80mと、直径約270mのレインボーブリッジなどに比べたらはるかに小さい円であるうえに、かなりの高低差を伴ってまるまる2回転するというところです。
ジムカーナなどでの定常円旋回とまではいかないまでも、走っていても踏ん張るほどの遠心力を感じる周回となっており、ずーっと体が傾いたままの走行を強いられるという、かなり刺激的なループ橋となっています。
しかも上空彼方の橋脚上を走るわけで、これだけのロケーションを2回転して一気に下って行くループ橋を、私は他に思い起こすことが出来ません。
単なる小回転半径でのループ橋ならば、都市型のパーキングや高速道路のICなどにもありますが、それでもここまで定常円で回り続けるループ橋は、なかなかないのではないでしょうか。
クルマの性能が上がったこともあり、現在は制限速度が40km/hで、当たり前ですが追い越し禁止となっているこのループ橋。以前は国道でありながら30km/hに速度制限されていた程で、走ってもらえればお分かり頂けると思いますが、制限速度でもなかなか外へと持っていかれる訳で、ここを目当てにわざわざ全国から足を運ぶ人も少なくない訳です。
スピードの出し過ぎには本当に注意して欲しい訳で、天城方面から南下してくると、ほぼほぼ直線状態のなだらかな下り坂から一気に旋回が始まるので、想像以上にスピードが出ていたりします。
前述のように回転半径が小さい上に、旋回中にもどんどん加速して行き、奥へ行くほどキツクなってきますので、フットブレーキを多用せずにエンジンブレーキをうまく利用して走って下さい。
特に冬期でなくとも早朝深夜は凍結している場合があるので、油断大敵ですよ!
ちなみに河津七滝ループ橋の直下には、町営の無料駐車場があるのですが、全国からやって来るループ橋を見上げる橋梁マニアからよく聞かれるのが、「カメラのフレームに収まらない…」という声です。
河津七滝ハイキング!
いろいろと珍しい建造物となっている河津七滝ループ橋ですが、冒頭でご紹介したように、近くに「初景滝」や「大滝」など7つの滝を巡るハイキングコースが人気の【河津七滝】があります。
秋の「伊豆天城路 河津秋まつり」の時などには、紅葉を楽しむ多くの観光客で溢れかえるこのハイキングコースですが、約1時間の散策路の途中には、伊豆の踊子の銅像などもあり、小説の世界を思い起こさせる場所もいくつかあります。
天城の自然を満喫できるコースとなっていますので、時間のある方は、河津七滝ループ橋を訪れた際に、ちょっと寄り道をして河津七滝へも足を運んでみて下さい。
ループ橋の無料駐車場からも、歩いて7~8分で七滝の入口へ行けますので、車を止めて歩いてもいいですし、途中に見晴台があり、河津七滝ループ橋の遠景も楽しめますよ!
100万人が訪れる「河津桜まつり」!
この河津七滝ループ橋の直下にある町営の無料駐車場の周辺には、濃くて色鮮やかなピンクの花を咲かせる桜の木が植えられています。
この記事を最初に書いた頃は、「この桜は河津桜と言って、ソメイヨシノよりも1ヶ月以上開花が早く…」と、細かく説明していましたが、今や河津桜は、早咲き桜の代名詞として全国的に知られるようになり、もはや説明する必要性もなくなりました。
そんな河津桜が咲く河津七滝ループ橋周辺は、早い春を告げる伊豆の一大イベントである【河津桜まつり】の会場の1つとなっており、2月になると鮮やかなグリーンのループ橋の周辺には、負けず劣らずこれまた鮮やかなピンクの河津桜が咲き乱れます。
河津桜まつりは、例年2月1日~2月28日に開催されるお祭りで、この河津七滝ループ橋をはじめ、河津川沿いに約850本、町全体では8000本以上の河津桜が花を咲かせ、広範囲にわたって楽しめるイベントとなっています。
人口7000人程の町に、毎年100万人~150万人とも言われる観光客が、マイカーやツアーバスなどで全国各地から押し寄せ、伊豆の自然豊かでのどかな山間の町が、信じられないような光景となります。
ループ橋も祭り期間中は大賑わいとなる訳ですが、一年の内で最も華やぐ季節でもあり、他の時期に比べ2倍も3倍も楽しめるのでおススメです!
また国道から無料駐車場に行く途中の、上条の坂の道端にも「上条の桜」と言われる河津桜の一本桜が咲いていて、以前はその存在すら気にもせず素通りしていましたが、歳月を重ね立派に成長しましたので、こちらも是非立ち寄ってみて下さい。
樹齢200年超の「姫桜」!
そして桜といえば、河津七滝ループ橋の無料駐車場近くに、「姫桜」と言われる1本の有名なエドヒガンザクラがあります。
昔は駐車場の所に、紛らわしい姫桜と書かれた目に付く大きな木の看板が立てられていて、どこに桜の木があるのか、どれが姫桜なのか探し回った記憶がありますが、ループ橋の駐車場から100mほど河津川沿いへと青木の坂を下ると、看板と説明書きがあるのでわかると思います。
姫桜と言われるこの桜の木は、高さが約20m程あり、日本三大仇討ちの1つとして知られる『曽我兄弟の仇討ち』で、河津掛けの考案者としても知られる河津三郎の息子兄弟に討たれた工藤祐経(くどうすけつね)の、祖母にあたる水草姫(みくさひめ)の生まれ変わりと言われています。
樹齢200年以上と言われるこの国内最大級の江戸彼岸桜は、残念ながら前述の河津桜とは開花時期が異なるため、同時に楽しむことはできませんが、4月上旬には花を咲かせていますので、その時期にループ橋を通られる方は、ちょっと寄り道をしてみて下さい。
季節を変え様々な楽しみ方ができる伊豆の河津、そしてその河津の山奥にある、ちょっと驚きの建造物である『河津七滝ループ橋』。
なんとなく走っていて楽しくなってしまうそんなループ橋を通りながら、早い春が訪れる南伊豆の旅に出掛けてみませんか?